『恋脳指数』という新書（小学館）が最近出版された。
そこはかとなく怪しげなタイトルであるが，この本で提唱した（読者が簡単に計算できる）恋脳指数（LQ，Love-brain Quotient）は，きちんとした仮説と調査に基づくもので，本来の意味での科学的な指数だと言ってよい。
かのグールド（Stephen Jay Gould，1941- 2002）が " The Mismeasure of Man”（訳本は『人間の測りまちがい』）という本で批判したように（ただし，その批判にも批判がある），人間の特徴をバイアスをかけて測定することは無意味か有害である。
そうしたバイアスがかかる大きな理由は，「測定」に仮説がないか，あってもアドホック仮説であることにある。
たとえば，企業などが採用する「適性検査」は，アドホック仮説に基づいているとみなす他ない。
適性検査では「感情安定性，社交性，協調性，慎重性，持久性，指導性，積極性」などを測定する。では，これらの性質を測定する根拠・仮説は何か？
これらが企業人として重要だとみなしてのことだと（そういうアドホック仮説だと）推測できるが，私がいくつかの企業で調べた限り，これらの項目は個別的にも総合的にも実際の企業内評価や業績力とは無関係である。実際問題として重要な「企業への貢献度」や「相対年収（年齢と勤続年数から予測される年収と実際の年収とのズレ）」とも有意な関係はない。
「計りまちがい」とは言えないまでも「無意味・無駄な測定」というしかない。そうなっている大きな理由は，科学性の欠如である。
科学の本質一つは予測性にある。
高い予測性には，きちんとした仮説とその仮説に基づく調査が当然ながら不可欠である。端的に，「企業への貢献度」や「相対年収」と結びつく諸脳機能・脳力は仮説化できるし，その仮説に基づく調査もできる。
ここでは詳述しないが，例のＨＱ論から導いたＨＱテストは「企業への貢献度」も「相対年収」も共に高い精度で予測できる－－仮説とそれに基づく調査がしっかりしているためだ。
で，恋脳指数だが，この指数ＬＱは恋愛（結婚も）の成功度・満足度をかなり高い精度で予測できる。恋愛は（この欄でも述べたように），性選択に関わる重要な営為であり，進化生態学と最新脳科学を踏まえれば，恋愛の成功度・満足度に関わる諸脳力・形質（表現型）をそれなりに仮説化・調査できるからだ。
ＬＱは一般の方々（女性を想定）が簡単に計算できるように，インベントリー（質問項目）形式にしている。その中には，一見恋愛と関係ないようなものもある。「ニュースキャスターのコメントをどの程度批判できますか？」などという項目・インベントリーが恋愛に関係するとは思えないかもしれないが，理論的には深く関係すると仮説化できるし，実際の調査で検証している（図）。
従来のこの種の指数，たとえば知能指数ＩＱや情動指数ＥＱは「指数化してから，人間として重要な営為との関係を調べる」という方向であった。
例の一般知能ｇＦにしても，社会的成功度・リスクを予測するために指数化したものではなく，その逆の方向－－ｇＦをまずは理論的・統計的に導き，そのｇＦテストのスコアが，大規模な調査によって社会的成功度・リスクと相関することが分かったという方向－－である。
もちろん，何らかの営為－－仕事やクルマの運転－－の「適性度・優秀度」を予測するべく作られた指数もいくつかある。
くだんの適性検査がその代表だが，その予測性が低いとしたら何の意味もない。ドライバー適性検査は「適性診断認定要領」でかなり厳しく予測性（診断結果と事故率との統計的相関性）を問われているのでそれなりの予測性が担保されているはずだが，この種の指数の全てがそうだとは限らないのは先述の通りである。
仕事はもとより，クルマの運転にしても，現代日本では「人間としてかなり重要な営為」である。
だが，進化的にみれば，恋愛は性選択に関わる非常に重要な営為であり，恋愛の失敗は遺伝子存続の失敗に直結する。しかも，女性の場合，恋愛は（進化的生活史からみれば）短期決戦的営為でもある。
これほど重要な営為を適切に説明・予測する指数がこれまで（世界的にみても）なかった，というのも私的には不思議である（この種の指数として心理学的なものがあるが，はっきり言って現象論・博物学的で，ＬＱとはレベルが違う）。
ただ，恋愛はＨＱ論と深く関わっているので，ＨＱ論の提唱者たる私が世界で初めて提唱・定式化した，というのは「流れ」としては理に適っている－－恋愛とは無縁な私にとってＬＱなど私的にはドーデモイイが，ＨＱ論のトピックとして恋愛とその定量化・指数化はやはり避けては通れない問題である。
ともあれ，ＬＱがかなり高い予測性をもつことは確かであり（ただし，当然ながら個人差はある），皆さんがＬＱを参考にして幸せな恋愛・結婚をして下さることを陰ながら祈っている－－幸福感は良好な結婚・家族と結びついて進化してきたらしいということもあるので。そして，たとえＬＱが低くても，ＬＱの本質上，向上させることができるので。
