たまには「科学者魂」と関係することを・・・，未だに続いている「TV出演」と絡めながら・・・。
これは本サイトで何度か書いてきたことだが（削除してしまったこともあるけれど），科学者はいつでも意味（significance）を考えるクセがある。Significantな発見や論文でなくては公表しない，あるいは，されないのが科学の世界だからだ。
このブログに関しても意味を時折考えてきた。そして「無意味」と思うことがあって，閉じたこともある。一時期していたツイッターに関しては（再公開した前回のブログでも記したように），意味を全く見出せず，結局は閉じた経緯がある－－新しい意味を自分なりに見つけたら再開するかもしれないが・・・。
この文脈で言うと，TV出演に関しても（当然ながら）意味を考えてきた。そして，ちょうどこのブログと同じように「無意味」と思うことがあり，出演を辞退しようとしたことも何回かある。
それでも未だにTVに出ているのは（やはりこのブログと同じように）意味を自分なりに見出しているからだ。その意味とは，正確な学識を広く伝えること，そして，世間で広まっている誤解・偽知識をなるべく正すこと，である。ついでにいえば（これは非常に難しいが）本ブログでいうところの「科学者魂」を伝える，ということである。
ここで言う「正確な学識」とは，１）科学的方法論で導かれた事実・発見（findings），２）確立された結論＝仮説，そして，３）信頼性が高い結論＝仮説，である－－この欄でも書いたように，科学的結論とは常に「反証可能性のある仮説」である。
これら３つをTV発言で区別しながら言うのは冗長で困難なので，「正確な学識」と一括しているが，あるトピック・テーマに関する多数の原著論文（当然ながら国際学術誌に掲載されているもの）を批判的に読みつつ総合すれば，findings はもちろんのこと，そのテーマに関して「現時点で最も正しい（信頼できる）結論＝仮説」を自ずと導くことができるし，そういう訓練を徹底的に受けてきたのが科学者である。
もちろん，トピック・テーマによっては，原著論文が少なかったり，諸論文の結論が互いに矛盾したりしていることもあるが，その場合でも，自分なりに批判的に総合して「現時点で最も正しい結論＝仮説」を導いて発言している。Findings に関しても，サンプル数や方法論の妥当性などを考慮して，なるべく信頼度の高いfindingsを紹介するよう努めている。
こうした営為に私としてはそれなりの意味を見出しており，それでTVに出演している，というのが基本的な思い・立ち位置である。
一方・・・，
脳科学に限っても，「多数の（あるいは信頼性が高い数編の）原著論文によって既に否定されている学識」や「参照している原著論文が不明な言説」さらには「孫引きの孫引き・・・によって変形されている言説」が，世間ではかなり流布している。ある一つの原著論文を紹介する際ですら，誤解を招くマスコミ報道が散見されることは，この欄でも何回か述べてきた通りである。
そうした「間違った学識」「誤解を招く言説」を否定したり批判したりすることは，科学者の社会的責任の一側面であり，TVでそのようなことをするのは，その影響力を踏まえれば，やはり意味があると思っている。
ちなみに，科学の質・レベルは「高度で建設的な相互批判」によって担保されているため，私の批判が批判されることはむしろ望ましいことである。
同じ理由で，科学的批判力をきちんと身に付けているのが，本来の科学者である。具体的には，国際学術誌からの査読の依頼を何度も受け多数の投稿論文（むろん英文）を査読してきたことが「本来の科学者」の指標である。私自身はその指標を何とかクリアしていると判断できるので，TV出演している－－でなければ，「脳科学者」などと公言できるわけがない。
とはいえ・・・，TVでの発言がかなり難しいことは，身に染みている。番組自体が「不合理」と思えることもあるが，その不合理性に耐えることは，「意味」を保持している限り可能である。また，脳科学に限っても「もっと適切な脳科学者がいるはず」と思うことも多い。それでも，「縁」は大切だし，「乗りかかった船」という言い方もある。そもそも，出演のオファー自体がありがたいことである。
なので，オファーがあり，かつ，意味を自分なりに見出せる限りにおいて，TV出演は続けたいと思っている。逆に言えば，オファーはともあれ，「無意味」と確信すれば当然ながら辞退する。
私にとって，この種の営為において最も重要なのは，やはり，「意味（significance）」である。
