連日だが，補足として・・・（やや長いが・・・）。
100mSv（研究者によっては，200ないし250mSv）以下の低放射線量と健康被害との関係に関する科学的議論は錯綜としている，という主旨のことを前回に述べた。
この「低放射線量での健康被害問題」に関して，錯綜の中にあっても私なりの結論（=仮説），「ホルミシス的NLT説」を提示した。
これは，いわゆるJ ないしU形モデル（J/U-shaped model）に近いものである－－ホルミシス効果 and/or 放射線適応反応を重視する（あるいは実証してきた）研究者は，J/U形モデルを結論付けることが多い。
そうした典型例として，シミュレーションによるモデルと疫学的データの例を図示しておきたい（詳細は当該論文を参照されたい；台湾での疫学的データは，論文自体が「え!?」と驚くようなもので，ある意味で面白いが，批判的に読むこと）。
私の説の是非はともあれ，政府を含めた一般的に採用されている説・モデルは，明らかにNLNT（non linear no-threshold）説である。しかも，バイスタンダー効果を無視したもので，微量の放射線量での健康被害を過少に評価している。すなわち，「バイスタンダー効果を無視したNLNT説」である。
でなければ，低濃度放射線の「危険性」を明示ないし暗示しながらも，「この程度の放射線量では大きな問題ではない」とか「暫定基準値」などが出てくるワケがない。そして，こうした言説は，既に「一般化」しているように見える。
端的に，米を含む農作物や畜産物で「この基準値以下なら安全」としているのは閾値を前提としているが，その閾値は低放射線量内（しかも微量）であり，科学的説としてのLNTモデルにもLTモデルにも属さない。にも関わらず，実際問題として，そうした政策がなされ，多くの国民も容認している（あるいはせざるを得ない）。
さらに，東京を含めた複数の地域で多くの人が脱出していないのは，このモデルを容認している（あるいはせざるを得ない）と見ることができる。
もし，政府や関係機関がある意味で誠実にLNTモデルを採用するなら，東京を含めた多くの地域が危険なので，それなりの対処・政策をすべきである。バイスタンダー効果を組み込んで微量の放射線の危険性を強調するなら，なおさらである。一方，もしホルミシス的NLT説を援用するなら，「安全性」のみならず「健康促進性」も提示すべきである。
ところが，そうなっていないことは明白で，現政府に限っても，その言説・政策は「バイスタンダー効果を無視したNLNT説」に基づいている。
しかし，この説は典型的なアドホック仮説である。
アドホック仮説に基づいている，ということを踏まえれば，アドホックな（その場限りで言い逃れ的な）言説・政策が出てくるのはいわば当然であり，理に適っている。
政治家は決してバカではない。批判はできるとしても，この状況にあってそれなりに努力していることを認めないのはフェアではない。
それでも意味不明な言説・政策が出てくるその根拠は，アドホック仮説のせいである，という見方は十分に可能で，だとすれば，アドホック仮説を容認している，あるいは，暗に提示・肯定している科学者の側の問題も大きい。
確かに，100mSv 以下での低濃度放射線と健康被害との関係は錯綜としている。しかし，科学の世界ではアドホック仮説が出てくるような状態ではなく，科学的な仮説を提示することは十分に可能であるし，多くの研究者がそうしてきた。
それなのに何故，アドホック仮説が「一般化」しているのか？
これまでに述べてきた「錯綜」が大きな要因の一つであることは間違いなく，また，科学者の側の問題も大きいとはいえ，「万が一」と「国民の安全・幸福」を考えるのが政治家，という観点もあってよいかもしれない。
万が一を考えれば，どのような微量の放射線も健康被害に結びつく可能性がある，しかし，そのことを明示することでの国民の混乱や不安などを考慮すれば明示できない，だとすれば・・・，という観点である。
放射線被曝と健康との問題が錯綜としてしまう，その理由には純粋科学には馴染まない多様な事象が関与している－－このことも，私としては気が付くしかなかったし，それで，この種の問題に関する言及を避けてきたという経緯もある。
この種の問題に言及することは今後はあまりないと思うが，「ホルミシス的NLT説」が結局は正しいはずと私は考えている－－それが「現時点で最も信頼性の高い結論＝仮説」である，とまでは残念ながら言えないとしても，結論（＝仮説）をきちんと提示することが科学者の基本的な態度であり，本サイトで言う科学者魂（の一部）でもあるので。
（またまた忘れていたら催促されたので・・・汗；ワンクリックでイイみたいです(^^ゞ）
