まさか，こんな記事に騙される人はいないだろう，という意味でドーデモイイ話であるが，某週刊誌から当該記事に関してコメントを求められたいうこともあって・・・
「Dカップ以上の大きなおっぱいを10分見つめると健康になれる」という驚愕の研究結果
かくタイトルの（Dカップ効果とも言うべき）記事が某サイトに記載されているとのことで，その文章を読んだのだが，これが非科学的なことはその「書き方」だけからも明らかである。この記事の元サイトは英文で，その英文の書き方を見ても同じである。
この記事が参照している論文はNew England Journal of Medicine に掲載されたとのことだが，この学術誌を以前から読んでいる私は，当該論文を見たことがない。また，主要著者とされる「Karen Weatherby」という医学系研究者は存在しない。
つまり，この記事が参照している論文は存在しない。
従って，この記事は明確な偽情報（デマ）であり，書き手（英文）はジョークとして書いたと推測できる。
本来なら４月１日に掲載すれば分かり易かっただろうが，ともあれ，この英文記事はジョークであり，それ以外にこの記事がネット上に公開される理由・意味を推定することは私にはできない。
あえて説明するまでもないと思うが，この英文記事を書いた記者は偽情報を真情報に見せる上で有効な複数の手法をうまく使っている。「興味を引く」「ありそうなこと」「権威付け」「具体性」という４種類の手法である。その意味で「凝ったジューク」とも言える。
このうち「ありそうなこと」というのはかなり重要なポイントである。そうした言説は科学的に立証しなくても「仮説」として成立するので，その仮説が実証されたように騙すことが比較的容易だからだ。
で，ここで（この記事と多少関係した）質問をしたい（何となく講義調になっていて申し訳ない；講義では「質問法」を多用するので・・・）。
次の言説は科学的に実証されているか？
「男性は心的ストレスが高まると太った女性を好むようになる」
この言説は，先行研究を踏まえると「ありそうなこと」で，仮説化できるので，科学的にある程度実証されている（そういう原著論文がある）と思うかもしれない。
しかし，この言説も偽情報である－－と，講義ならあえて言って，「自分で調べ，考え，批判する能力」の重要性を学生たちに説くところである。
実際は，このことを示唆した原著論文があり（Swami & Martin，2012），その論文が掲載されたのはオープンアクセス誌なので，今述べた能力があれば，「偽情報ということが間違い」ということがメタ的に分かるはずだからだ。
そして「偽情報をそれと見抜くこと」よりも「真情報を偽情報として扱っていることを見抜くこと」がより重要（というか高度）であることを学生たちに教える・・・（「神経神話の神話性」を見抜くのと同様である）。
本ブログは（当然ながら）講義ではないので，そんなメンドーなことはしないが，このDカップ記事（英文）は偽情報の特徴を端的に示していて，かつ，偽であることがとても分かり易いので，「自分で調べ，考え，批判する能力」を試すのに使えるかもしれない。
いや，この記事をジョークとして捉えない人がいるとは思えないので，やはり，使えない。もしそういう人がいたとしたらそのことの方が私としては「驚愕」である。
